なでしこワインストーリー|~ワインに魅せられた女性たちVol.2~

なでしこワインストーリー|~ワインに魅せられた女性たちVol.2~

なでしこワインストーリー

~ワインに魅せられた女性たちVol.2~ 


 ワインに携わる仕事は、レストランやバーで勤務するソムリエを始め、ワインショップ、ワインインポーター、ワイン講師と今や多岐に渡ります。

 歴史的にみれば男性優位の職業とされていたワイン業界ではありますが、当ブログ「なでしこワインストーリー」のシリーズでは、ワイン業界で既に活躍されている女性、ワイン業界に華麗なる転身を遂げた女性、他の仕事とワインのお仕事の二足の草鞋を履く女性など、多方面からスポットライトを当て、ワイングラスの先へ女性ならではの視点で見つめる未来を、読者の皆さまに共感や新たな発見、そして刺激とともにお送りいたします。

 第二回目の当連載は、日本ソムリエ協会が主催する次世代のソムリエの育成・輩出を目的とした若手ソムリエの登竜門「ソムリエ・スカラシップ」という大会で、2020年に最優秀賞受賞者の一人となった女性の大葭原風子(おおよしはら・ふうこ)さんにインタビューの機会をいただきました!

 

 

(在籍中のベージュ・アラン・デュカス東京にて)

 

 

-よろしくお願いいたします。たくさん伺いたいことがありますが、まずソムリエやサービスマンを目指したきっかけをおしえて下さい。

 よろしくお願いします。そうですね、私の両親が新婚旅行でフランスに行った話を聞いて、いつか一緒にフランスに行き、フランス語で現地を案内したいなという思いから、大学でフランス語学科を専攻していました。
そして、大学3年生の時に、留学でブルゴーニュに行ったことがワイン…いや、そもそもお酒との出会いでしたね。

  

-それまではお酒は飲まれてこなかったのですか?

 

 はい。むしろお酒は苦手でした。美味しさがわからなくて。でも留学先で出会った仲間がみんなお酒好きで、みんなとワイワイ過ごすのは好きだったので、一緒に過ごしていたら、ある日突然、目覚めてしまったのです。
あ、お酒って楽しくて美味しいなと。もともと食べることが大好きだったのですが、お酒を片手に料理を食べる楽しさを知ってしまってからはもう…(笑)。

 そして、留学の期間を終えて帰国し、卒業後にもう一度ワーキングホリデーでフランスに行くことを決めました。
不思議なご縁で、留学時代学生寮だったのですが、寮になぜかソムリエ資格を持ったおじいさんがいて。そのおじいさんが「君、サービスに向いているよ」と私に言ってくれたのです。
その人が、ブルゴーニュのペルナン・ベルジュレスにある一つ星のレストラン“Le Charlemagne”にコネクションがあるということで、住み込み寮付きで私を斡旋してくれました。特にその時は夢もなかったので、よし、行ってみようと!
でも、実は家庭の方針で、サービス業どころか大学を卒業するまでアルバイトすらしたことがなかったので、何をもっておじいさんが向いていると言ったのかは不思議ですが…。

 

-えっ!?いきなりフランスの一つ星レストランに就労経験なく飛び込んだということですか!?

 

 はい(笑)。そして勢いで現地に行ったのは良いものの、サービス論以前に、お皿の2枚持ちのやり方も、トレンチの持ち方も知らず、文字通りフランス人のメートルの方にボロボロに言われましたね。「何をしに君はここに来たんだ!?」と。
でも私を紹介してくれたおじいさんは「サービスに向いている子」とは言ったけれど、「サービス経験者」とは言っていないので嘘ではないですよね(笑)。
初日に、「お皿の2枚持ちができるようになるまでホールに出るな」と言われたので必死に練習した事はよく覚えています。

 

-すごいですね…。そんなフランスでの生活で心が折れることはありませんでしたか?

 

 持ち前のマイペースさもあり、大丈夫でした。

10か月後、初めに私をボロボロに言ったメートルの方からは、「お前はよく頑張った、教えることはもう何もない。」と言われた時は嬉しかったですね。
その後、せっかくフランスにいるので他の現場も見てみたい気持ちがあり、日本人シェフが働くパリのビストロで働かせていただきました。ビザの関係で帰国することになると、そのシェフのつながりで、ちょうどオープニングスタッフを探していた銀座の“ティエリー・マルクス”で働くご縁をいただきました。

 

 

海外酒販アジア【なでしこワインストーリー】 ~ワインに魅せられた女性たちVol.2~(写真一番左/フランス勤務時代の写真)
(写真一番左/フランス勤務時代の写真)

 

 

-フランスから日本に帰国され、本格的にレストランサービスを深められることになったのですね。日本で働き始め、何かギャップを感じることはありましたか?

 

 そうですね、よく、フランスで働くのは大変だった?と聞かれますが、逆に日本でのサービス業の地位の低さには驚きました。
フランスではお客様とサービスマンが対等でしたので。日本でも、もっと光が当たって良い仕事だとは今でも思いますね。

 

-なるほど、ありがとうございます。今伺っただけでも、本当にたくさんの素敵なご縁が大葭原さんの人生を繋いでらっしゃいますね。

 

 本当にそうですね。ティエリー・マルクス入社後も、直属の上司の谷川雄作ソムリエ(現SUGALABOⅤ)の理論的かつ世界中を網羅したペアリングは非常に勉強になりました。
営業中は一瞬たりとも気を抜くことが許されないスパルタ教育で、コロナ以前は終電後まで働き、くたくたに…といった毎日でしたね。
でもそんな忙しい環境の中でも、「どこまでもお客様のために」という上司の姿は今でも私の目指すソムリエの姿として残っています。

 コンクールを志したきっかけも、上司の「友達ほしくない?」という言葉でした。同世代の同業の知り合いも少なく、地元も福井県なので、友達が欲しい!と素直に思いコンクールへの挑戦を決めました。
受けたからには頑張らねばと、自分で自分のお尻を叩きながら挑戦しました。ありがたいことに、2020年に最優秀賞を受賞することができ、無事に友達も増えました(笑)。
コロナの影響でなかなか大会等の開催も制限されてはいますが、全日本最優秀ソムリエコンクールはもちろん、他にも挑戦できる大会は全て挑戦したいと思っています。

 

-コンクールに挑戦するということは、普段の営業のほかにも、膨大な準備の時間や、エネルギーがいるものだと思います。挑戦を続けるモチベーションは何かありますか?

 

 うーん、お客様に喜んでいただきたいという気持ちだけなのです。喜んでいただくためには知識や経験が必要で、もちろん勉強も必要で、その勉強を続けるためのモチベーションを保つため、コンクールに挑戦するという事が一番大きいですね。

 

-お客様にひたすらに向き合い、そしてコンクールでは結果も残す、というのは本当に素敵です。ご自身のこれからの課題は何かありますか?

 

 課題、といいますか、自分がお勧めしたワインがお客様に「合わなかった」と思われないようにすることです。
「合う」というのは、料理との相性や、そのお客様のお好みに合わなかったということもあると思いますが、総合的に、自分に至らない点があって表現される言葉だと思っています。
ソムリエはあくまでも黒子です。主張しすぎも主張しなさすぎも良くなく、さりげなく、かつお客様の心に残る提案と提供をする、
そのバランスが「美味しい」につながるのだと思っています。「合わない」と言われると落ち込みますし、忘れられないですね、自分が美味しいものが大好きだからこそ。
正解がないからこそ、自分を磨き続けることを大切にしていきたいですね。

 

-「女性」として、ソムリエやサービスに携わる仕事について考えることはありますか?

 

 体力がいる仕事ということもありますし、どうしても男性にはかなわないところはあります。
女性だからどう、男性だからこうという話ではありませんが、やはり、男性がビシッとスーツを着てフロアに立っていると空間が締まるというか、素直に格好いいなと思いますよ!
他のお店を見てもシェフソムリエの方などは圧倒的に男性が多いですが、でも、その中で女性ソムリエとして、人の上に立つような存在がいれば素敵だと思います。女性は結婚や出産や子育てなどで、特にキャリアに関して悩む機会は多いと思いますが、正解がない中で、悩みを持つ人たちや、若い世代に一つの道を照らすことができる存在であればと思います。

 

 私自身は、二番手のほうが向いているかなと思うことが多いですが、だからこそ、後輩に対して、働きやすさだったり、高いクオリティを保つための環境作りだったりを無意識に考えているかもしれません。今、私は“ベージュ・アラン・デュカス東京”に在籍していますが、マネジメントに長けている上司が多く、同世代の同じ志をもった仲間もいて、若くして挑戦できる環境というのは本当に刺激や勉強になります。そのような環境の中で、女性だからこそできるマネジメントの在り方を考え続け、自分の視野をより広げていきたいですね。

 

 コンクールやマネジメントについても色々お話ししましたが、あくまでもお客様の素晴らしい体験の幅を広げたいという事が私の最大のモチベーションなのです。お客様はワインやお食事をもちろん楽しみにいらしているのですが、サービスとは人間としての総合力だと思っています。例えば、観光や、文化や、世界情勢、多くのことにアンテナを張ることで、お客様の「楽しい」や「美味しい」の総合点につながると思うので、この仕事は常に勉強だなと改めて思います。

 

 

 もしも、これからサービスだったり、コンクールだったり目指しているという方にアドバイスをするならば…

やはり、まずは挑戦してみることだと思います。例えば、コンクールなどは、「えいっ」と応募してみることをお勧めします(笑)。応募したからにはやるしかないか、と。覚悟はそこから出てきますよ。きっとその人なりの、挑戦したからこそ見える景色があるはずなので!

 

(コルトンの丘の上からの写真)

 

 今回は貴重なインタビューの機会をありがとうございました!「誰かのために」と、まっすぐに語る大葭原さんの瞳が印象的でした。謙虚に学ぶ姿勢がある大葭原さんだからこそ、ご縁とその努力で新しい道をこれからも切り開いて行かれることを確信しました。これからの益々のご活躍を応援しております!                     

 

~今回取材をさせていただいた方~
大葭原風子(おおよしはら・ふうこ)さん
福井県出身6月26日生まれ
ソムリエ・スカラシップ2020年最優秀賞受賞者
ブルゴーニュのワインを飲むと実家に帰ったような安心感があるそうです 

‐経歴‐
Restaurant Le Charlemagne(フランス)
Le Sot I´Laisse(フランス)
Thierry Marx(銀座)
Beige Alain Ducasse Tokyo(銀座)

 

執筆者

小野 栄子さん ソムリエ ワインバー グレイプス

 

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小野栄子(おのえいこ)

大学卒業後、広告代理店にてコピーライティングや雑誌の編集の仕事を経験。激務の中、息抜きに行ったワインバーでワインの魅力に魅せられ、ワインバーでの副業を始める。生まれ年のシャトー・ムートン・ロスチャイルドのワインを飲み、ワイン業界へ本格的に転職を決意した。J.S.Aソムリエ資格取得。前職を活かしつつ、ワインのコラムやインタビュー、短編小説を執筆。

 

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