以前、某オークションサイトで落札をしたというMonopoleシール付のDRCのリシュブールを購入してしまった方にお会いしたことがありました。(リシュブールはDRCの単独所有畑ではありませんよね。)あまりにも粗末な偽物です。返品ができなかったようなので、なかなかない機会ということで私も一口試飲をさせていただきましたが、味は、ピノ・ノワールを水で薄め、怪しげなスパイスを足したような味…。とても飲めたものではありませんでした。偽物ワインに出会うと、ワイン業界に携わる筆者としては悲しい気持ちになります。ましてや生産者が自分の育てたワインの偽物が出回っていることを知ったらどれほど悲しいでしょう…。
今回の記事では、偽物ワインにまつわる事件、そして偽物ワインを判断するために必要な情報をまとめます。

有名な偽物ワインの事件とは?
有名なワインの事件といえば、「すっぱいブドウ」(2016/英)という映画のもとになったワインスキャンダルです。2000年代以降、アメリカのオークション業界に頻繁に出入りするようになったルディー・クルニアワンは、ロマネ・コンティやアンリ・ジャイエ、ペトリュスなど、自作の偽物ワインをオークションで大量に販売し、10年間で少なくとも1億5000万ドル以上販売したといわれています。ブルゴーニュの造り手、ローラン・ポンソ氏が、造っていないはずのビンテージの自社ワインをオークションサイトで発見し、指摘。ルディーの逮捕へとつながりました。現在もルディーが生み出した偽物ワインは市場に出回っているといいます。

偽物ワインを判断するために必要なポイント
そんな偽物ワインに合わないためにはどうすればよいでしょうか?もしも、そのワインを今まで飲んだことがないならばなお、これは本物なのか?と不安になりますよね。いくつかの偽物ワインだと判断するポイントをまとめます。
―ワインの流通経路をたどる
まず、そのワインが正規輸入品か、並行輸入品かチェックしてみましょう。どちらかが良くどちらかが悪いという論点ではないのでご注意を。ただ、正規ルートの輸入品(ドン・ペリニヨンでいえばMHD)か、正規ルート以外の個人や団体で輸入された並行輸入品だと、偽物ワインが取り扱われるのは並行輸入品がほとんど。一つの判断材料としてインポータ―シールのチェックや、できるかぎり流通経路をたどることが重要です。
さらに、ワインの発売元の過去の実績をたどってみましょう。ワインメーカーとできるたけ距離が近い発売元や、可能であればワインメーカーから直接買い付けていることがより大きな安心材料となります。海外酒販(株)は、1967年に商社の高級ワイン事業部として始まりました。現在は、専務取締役兼仕入れ担当を中心に、半世紀以上にわたりイタリアやフランスの信頼できる発売元からの購入を徹底し、日本国内にワインを販売しています。
そしてインポータ―シールのついたワインでも偽物は存在します。そのインポータ―に直接確認するというのもよいでしょう。筆者も、疑わしいワインの鑑定の依頼があり、インポータ―に問い合わせたところ「その年のボルドーは取り扱っていないので、偽物だと思う」という返信をもらったこともありました。やはりできるだけ信頼できる場所でワインを迎え入れる、ということは大切ですね。
―ワインのエチケット・コルク・キャップシールのチェック
エチケットの印字を確認してみてください。インクジェットで印刷されたエチケットは拡大するとにじんだように見えたり、年代とともに汚れた風のエチケットをよく見ると、しわや埃などが一緒にコピーされていたりする可能性もあります。
コルクが短すぎたり、コルクにドメーヌ特有の表示が書かれていなかったりする場合もご注意を。
近年は偽物ワイン撲滅のためIT技術を駆使し、スマートフォンで偽物かどうか判断する装置の開発も進んでいます。シャトー・マルゴーで2011年より採用されたプルーフタグは、一本ごとに個別の番号と認識パターンをもっています。このタグはキャップシールについており、取り外すと元に戻すことも再使用もできません。これにより、シャトーでは出荷されたワインの情報を把握することができるのです。日本の凸版印刷で開発された不正開栓や穴あけを感知するICタグも、ドメーヌ・エマニュエル・ルジェで採用されるなど話題になりました。

―安物買いの…。
そしてあまりにも安いワインにはご注意ください。市場価格では60万円は超えているのに、20万円で売っているワインがあるとします、なぜ安いのか理由がはっきりしない場合は、匂いますね。安物買いの銭失いという言葉がありますが、以前、ギャラリストの方に偽物の絵画を買わないためにはどうすればよいか、と伺ったことがあります。まず、話を持ち掛けた人の人相を見る、と話していました。漠然とした話のようですが、実はこれもワインに共通するとても大切なこと。直感で怪しい匂いがするもの、あまりにもうまい話には飛びつかないことが正解です。
まとめ
つい先日もニュースで、平山郁夫や東山魁夷ら日本画の巨匠の作品の偽物が何年にもわたって販売・流通されていたというニュースを目にしました。サインや色合いの違いから偽物と判明したようですが、その出来はプロの目も欺くほどであったとか。ワインに限らず、アート作品、ブランドバックなど、高額で取引される商品には、まるで追いかける影のように、偽物は生まれてしまいます。ワインの偽物もより巧妙な品になってきていて、十数万を超えるワインだけではなく数万円ほどのワインでも偽物が出回るようになってきました。
いくつかの偽物ワインを見分けるためのポイントを今回まとめましたが、お伝えしたい大切なことは、偽物ワインという存在があるということを頭の片隅においておくこと、自分の感覚を信じること、できるだけ信頼できる場所でワインを購入すること、そして必要以上に恐れすぎず、ワインを心から愛する仲間とより楽しく深いワイン時間を過ごすことだと思っております。偽物のワインを見分けることは簡単なことではありませんが、いくつかのポイントをおさえることであなた自身でも必ず偽物のワインに出会うリスクは排除することができます。今日も皆さまが素敵な一杯に出会えますように。
参考文献
※下記リンクをクリックすれば直接ページにリンクいたしますため、ご注意ください。
‐インターネット記事 Richard Woodard, 「How to spot a fake wine: 10 signs to look for」,『Decanter 』(2016.11.9)
How to spot a fake wine: 10 signs to look for - Decanter
‐Jeannie Cho Lee,「How To Avoid Buying Fake Wine」,『Forbes』(2017.2.22)
https://www.forbes.com/sites/jeanniecholee/2017/01/22/how-to-avoid-buying-fake-wine/
‐美術手帳編集部「平山郁夫、東山魁夷、片岡球子の偽版画流通が発覚。業界団体らが臨時の調査委員会を設立へ」『美術手帳』(2021.2.9)
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/23548
‐渡辺順子,「被害総額120億! 全米を揺るがした偽造ワイン事件」,『Diamond Online』(2018.12.5)
https://diamond.jp/articles/-/186362?page=3
‐Sankei express,「競売市場の高級ワイン「8割は偽物」 犯罪組織暗躍 対策に追われる生産者」,『Sankei‐biz』(2014.2.27)
https://www.sankeibiz.jp/express/news/140227/exg1402271038000-n1.htm
‐Priya Anand,「偽ビンテージワインと本物を見極めるヒント」.『WSJ』(2014.7.29) https://jp.wsj.com/articles/SB10001424052702304126704580058480403512838
‐企業公式ホームページ Chateau Margaux,「あなたのボトルの認証」
https://www.chateau-margaux.com/jp/
‐Toppan,「凸版印刷、真贋判定ICタグがブルゴーニュの高級ワインメーカーで採用」 (2018.11.16) https://www.toppan.co.jp/news/2018/11/newsrelease181116_1.html
‐映像 Bloomberg Quicktake ,「How to know If your Expensive wine is fake」,(2015.5.21)
‐ルーベン・アトラス・ジェリー・ロズウェル,『すっぱい葡萄』(原題:Sour Grapes),製作国:イギリス、上映時間:85分(2016年)
執筆者

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小野栄子(おのえいこ)
大学卒業後、広告代理店にてコピーライティングや雑誌の編集の仕事を経験。激務の中、息抜きに行ったワインバーでワインの魅力に魅せられ、ワインバーでの副業を始める。生まれ年のシャトー・ムートン・ロスチャイルドのワインを飲み、ワイン業界へ本格的に転職を決意した。J.S.Aソムリエ資格取得。前職を活かしつつ、ワインのコラムやインタビュー、短編小説を執筆。
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